教員不足 自治体3割で悪
「定額働かせ放題」批判 採用前倒しも効果薄
日本経済新聞 朝刊 インサイドアウト (18ページ)
2025/6/2 2:00
小中学校の教員不足が深刻化している。大量採用の世代が定年を迎え、新たな担い手も足りていない。3割の自治体が足元で「悪化している」と見る。国は採用前倒しで対策を促すが、効果は薄い。不人気の理由の根幹は就業環境だ。仕事時間は主要国平均の1.5倍と長く、残業に歯止めがかからない働き方が問題視される。
全国的な教員不足を初めて明らかにしたのは、文部科学省が2022年1月に公表した「『教師不足』に関する実態調査」。採用選考を担う47都道府県と20政令指定都市の教育委員会などを調査し、21年度始業日時点の、全国の小中高校と特別支援学校の教員定数83万6079人に対する実際の配置は83万4014人で、2558人の欠員が生じているとした。
状況はその後も膠着している。23年度始業日時点で68教育委員会のうち教員不足が前年より「悪化」したのは42.6%を占め「改善」(16.2%)を大きく上回った。24年度当初は「悪化」が32.4%、「改善」が16.2%だった。
48カ国・地域で最長 「ブラック」指摘も
厳しい境遇にある都道府県のひとつが鳥取県だ。教員を養成する大学の教育学部が全国で唯一ひとつもない不利な条件が響く。県内のある小学校校長は「産休や育休、病欠をカバーする講師の確保が難しく担任の負担を軽減できない。教頭が担任に代わって入ることが常態化している」と吐露する。
同校を管轄する教育委員会の職員は「早く帰宅するよう指導すると『そもそも定額働かせ放題が問題なのではないか』と怒り出す先生もいる」と話す。「状況を伝えることで、職場がブラックと見られて成り手が減少する悪循環に陥っている」(校長)
経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本の小中学校教員の1週間の仕事時間は対象48カ国・地域で最長だった。中学校教員の場合、56.0時間と参加国平均(38.3時間)の1.5倍で、課外活動や事務業務の時間は2~4倍長かった。一方で、自らの指導技術を高めるための職能開発の時間は半分以下だった。
長時間勤務が見過ごされる要因の一つは残業の扱いにある。教職員給与特別措置法(給特法)によると、公立学校の教員の給与体系に時間外手当はなく、月給の一定率を「調整額」として支給する。実際に働いた時間の把握が徹底されず、仕事が長引いても給与は変わらないからくりが「定額働かせ放題」との批判を生む。
人手不足の緩和に向け、国も対策に乗り出した。文部科学省は25年度の採用から、選考時期の早期化を促している。1次試験が大学4年生の7月ごろと民間企業より遅いことを解消するため、25年度は6月16日を目安とするよう要請した。26年度採用では、さらに1カ月の前倒しを求めている。
採用倍率高まっても 合格者半数が辞退
受験者数の減少に効果がある可能性はあるが、他自治体に先駆けて20年度採用から早期化を取り入れた鳥取県では副作用も出ている。24年度の小学校教員の採用倍率は全国1位(7.5倍)となったが、力試しで受験する人も増え、合格者の半数が辞退した。
鳥取県教育委員会の足羽英樹教育長は「辞退者が増えるのは織り込み済み」と説明するが、同県の平井伸治知事は「半数の辞退は非常に厳しい」と受け止める。内定者が定まらず、各校に配置する計画は立ちにくくなっている。
国は教員の処遇についてもてこ入れを試みる。現在月給の4%とする教職調整額を段階的に10%に引き上げる改正案を、今国会で成立させる方向だ。
教育制度に詳しい慶応義塾大学教職課程センターの佐久間亜紀教授は「教員の処遇が改善されることは重要だ」としつつ、こうも指摘もする。「教職を志した学生が『過労にならないか』『耐えられるだろうか』と悩んで諦めるのを止めるほどの力はない」
米欧、アジアなど10カ国の教員の給与や働き方を比較した文科省の委託調査(21年度)によると、多くの国で家庭訪問はなく校内清掃や昼食の指導も業務外だった。
米国の多くの州では教員の分業が進み、仕事量に応じた報酬を支払っている。この手法では長時間勤務を防げるが、連携が難しく子供を包括的に教育できないため「やりがいをそいで教員不足に拍車をかけている」(佐久間氏)との声もある。
日本の教育には、国立大学の教育学部が中心となり、地域の実情にあった指導方法などを研究してきた経緯もある。部活動など課外活動の運営で地域と協力したり、人工知能(AI)など先端技術を活用したりして業務量を減らせないか。教職を目指す人材を尻込みさせない改革が求められる。
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